自動車整備工場では近年、入庫予約・車検/点検の工程管理・顧客カルテなどを扱う整備管理システムの導入が進んでいる。IT導入補助金の後押しもあり、紙の作業指示書や口頭連絡から脱却した工場は増えた。
しかし整備管理システムを導入した工場からも、「システムの外」で回っている業務が依然として多いという声を聞く。代車の貸出管理、複数部品商社への見積り比較、保険会社やディーラーとの書類対応、顧客への進行状況連絡——こうした周辺業務は、整備管理システムの守備範囲から外れやすい。
整備管理システムがカバーする範囲
整備管理システムとは、入庫予約の受付から車検・点検・修理の工程進捗、顧客ごとの整備履歴(カルテ)、部品発注の一部連携までを一元管理するシステムを指す。デンソーテンやオートックスなど各社から専業向け製品が提供されており、工場内の作業を「誰が・いつ・どこまで」進めたかを可視化する機能に強みがある。
工程管理と顧客カルテの一元化によって、担当整備士が不在でも進捗を引き継げるようになった、という効果は実際に報告されている。人手不足が続く整備業界にとって、属人化を減らす手段としての意義は大きい。車検の法定点検項目や整備記録簿の作成といった、法令で定型化されている業務との相性が良いことも、こうしたシステムが広く普及した理由のひとつだろう。
システム導入後も現場に残る業務
代車の貸出・返却管理
整備工場の多くは代車を保有しているが、貸出中の車両がどれか、返却予定はいつか、貸出時の任意保険の条件(等級不担保特約の有無など)はどうなっているかといった管理は、整備管理システムの車両情報とは別の台帳やExcelで回されているケースが多い。整備対象の車両情報と代車の在庫情報は本来別物であり、システム側が代車運用まで想定していないことが背景にあるとみられる(推測)。返却時の傷・汚れ・給油状態の確認記録も、紙のチェックシートのまま残っている工場は少なくない。繁忙期に代車が足りなくなるタイミングの見極めも、担当者の経験則に頼っている場合が多い。
複数部品サプライヤーへの見積り比較
修理に使う部品は、純正品・社外品・中古のリビルト品など選択肢が複数あり、価格と納期を複数の部品商社に問い合わせて比較する場面がある。整備管理システムの部品発注機能は特定の商流(ディーラー系列の部品商など)に最適化されていることが多く、複数社を横断した見積り比較まではカバーしていないことが多い。結果として、電話やFAX、個別のメールでのやり取りが残り、比較結果を担当者がメモやExcelにまとめる運用になりがちだ。急ぎの修理であれば納期優先、時間に余裕があれば価格優先といった判断も、その都度担当者の頭の中で行われている。
保険会社・ディーラーとの書類対応
事故車修理では保険会社の見積り査定・示談書類のやり取りが発生し、ディーラーの保証修理では別途ディーラー独自のポータルへの入力が求められることもある。これらは工場側のシステムとは切り離された、相手方のフォーマット・システムに合わせる業務であるため、整備管理システムに統合する余地がそもそも小さい。損害保険各社のポータルはそれぞれ仕様が異なり、示談が成立するまでの間、案件ごとの進捗を追いかける作業も発生する。書類の控えをどう保管し、どの案件と紐づけて管理するかは、各工場の運用ルール任せになっているケースが目立つ。
顧客への進行状況連絡
「今、車検のどの工程まで進んでいるか」を顧客に伝える業務は、忙しい現場では後回しになりやすく、連絡するかどうか・いつ連絡するかが担当者の判断に委ねられがちだ。整備管理システムに進捗ステータスの記録機能があっても、それを顧客向けのSMSや電話連絡に自動でつなげる仕組みまで備えているとは限らない。LINE公式アカウントなどで一斉配信するだけでは、車両ごとに異なる進捗状況や、追加修理が発生した場合の個別確認までは対応しきれない。
なぜ整備管理システムだけでは埋まらないのか
整備管理システムとは何かを改めて整理すると、その本質は「工場内の工程を可視化・標準化するツール」である。一方で、代車運用・部品調達の商流・保険会社やディーラーとの対外手続き・顧客対応は、工場ごとに取引先や慣習が異なり、標準化しにくい領域だ。汎用的な整備管理システムがそこまで踏み込んで機能を持たせようとすると、逆に大半の工場にとって使わない機能ばかりが増えてしまう。ベンダー側が工程管理という中核機能に的を絞るのは、対象ユーザーの裾野を広げるための設計判断としては筋が通っている。
加えて、中小規模の整備工場では専任のIT担当者がいないことが多く、複数のツールを連携させる設定や、Excel運用を別システムに置き換える作業まで手が回らないという事情もある(推測)。結果として、システム導入は「工程管理」という中心部分だけにとどまり、周辺業務は従来どおりExcelや紙が残り続ける。
周辺業務をどう整理していくか
いきなり全ての業務を一つのシステムに寄せようとする必要はない。まず洗い出すべきは、今の整備管理システムがどこまでをカバーしていて、どこから先が担当者の頭の中や個人のExcelファイルに依存しているか、という運用実態のギャップだ。
例えば代車管理であれば、貸出・返却・保険条件をひとつの台帳で追えるようにするだけでも、担当者不在時の混乱は減らせる。部品の見積り比較であれば、商社ごとの回答をフォーマット化して比較しやすくするだけでも、判断のスピードは変わってくる。こうした「システムの外側に残った、頻度が高く工場固有のルールがある業務」を自社専用のツールで補うという考え方は、クリーニング店の受付・クレーム対応や、建設現場の日報のように業種固有の運用が残るケースでも共通して見られる構造だ(参考: クリーニング店の管理システムで解決しきれない現場業務、工事日報アプリが合わない建設現場の実情)。
整備管理システムを入れ替える、あるいは高機能なシステムに乗り換えるという選択肢もあるが、周辺業務だけをピンポイントで整理するほうが、コストと現場の負担のバランスが取りやすい場合もある。どちらが適切かは、周辺業務にかかっている時間と、それによって発生しているミス・伝達漏れの実態を見てから判断するのが現実的だろう。
代車の返却漏れや部品の重複発注、保険会社とのやり取りの行き違いといったトラブルは、一件一件は小さくても積み重なると工場の信用に関わる。整備管理システムが対応しきれない部分をどう埋めるかは、規模拡大や事業承継のタイミングで一度立ち止まって検討しておきたいテーマだ。