2026年9月9日 AIブログ 業務アプリケーション開発

接骨院・整骨院に迫る2026年療養費改定——後療料引き上げの裏で増える事務負担と、自費移行という経営の分岐点

2026年7月、柔道整復療養費が改定された。接骨院・整骨院を経営する立場から見ると、これは料金表が少し書き換わっただけの話ではない。施術1回あたりの単価が一部上がる一方で、記録・請求・明細書のルールが厳しくなり、健康保険(療養費)に依存してきた収益構造そのものに再考を迫る内容になっている。この記事では、柔道整復療養費改定を切り口に、接骨院・整骨院という業種が抱える事務負担と収益構造の課題を整理する。

接骨院・整骨院の収益は「療養費」と「自費」の二層でできている

まず前提を押さえておきたい。接骨院・整骨院の売上は、大きく二つに分かれる。ひとつは健康保険から支払われる療養費、もうひとつは患者が全額を負担する自費施術だ。この二層構造を理解しておかないと、今回の改定が経営にどう効くのかが見えてこない。

療養費の対象は、急性・亜急性の外傷である打撲・捻挫・挫傷、そして骨折・脱臼の応急処置などに限られる。日常的な肩こりや慢性的な腰の疲れ、疲労回復を目的とした施術は、本来は療養費の対象にならない。ここが医療機関の保険診療と大きく違うところで、対象範囲が狭く、かつ「負傷の原因」が常に問われる。

療養費とは何か

療養費とは、本来は患者がいったん窓口で全額を支払い、後から保険者(協会けんぽや健康保険組合など)に請求して払い戻しを受ける仕組みを指す。ただし柔道整復では「受領委任」という取り扱いが広く使われており、患者は窓口で1〜3割の自己負担分だけを払い、残りは接骨院が保険者にまとめて請求する。患者から見れば病院と同じ感覚で通えるが、接骨院側は毎月、保険者ごとにレセプト(施術内容の明細書)を作成して請求する事務を負っている。この「請求事務が施術側に集まる」構造が、後で述べる負担増の土台になる。

2026年7月の柔道整復療養費改定で何が変わったか

単価はやや上がった、が「回数」と「部位」は締められた

各団体の解説によれば、今回の改定では打撲・捻挫の後療料が引き上げられ(一例として505円から550円へ)、初検料や再検料もわずかに増額された。単価だけを見れば追い風に見える。しかし同時に、算定できる回数や部位に関するルールは締められている。治癒・中止の翌日から一定期間内は、別の部位であっても初検料を算定できないといった、短期間での再算定を抑える方向の見直しが入った。単価が上がっても、算定の機会が絞られれば、施術所全体の療養費収入が自動的に増えるとは限らない。

明細書と記録の厳格化

もうひとつの柱が、記録と明細書の厳格化だ。明細書の発行にかかる加算が新設され、負傷名や施術部位を記載する欄が加わった。当面は月1回のまとめ発行も認められる見込みだが、方向としては「毎回発行」が標準になっていくとされる。患者に対する透明性を高める狙いだが、現場から見れば、施術のたびに何を・どの部位に・どんな負傷原因で行ったかを、施術録と明細書の間で食い違いなく残す手間が増えることを意味する。

「8ヶ月9部位」を超える患者は償還払いへ

いわゆる「部位転がし」——複数の部位を入れ替えながら長期に算定を続ける運用への対策も強化された。各団体の解説によれば、直近1年で通算8ヶ月以上かつ通算9部位以上の施術を受けている患者は、原則として受領委任ではなく償還払い(患者がいったん全額を払い、自分で保険者に請求する方式)へ切り替える対象に加わる。計測は2026年1月から始まり、条件に該当する患者が実際に出てくるのは最短で2027年初めごろとされる。償還払いに移れば、患者にとっては手続きの負担が増え、通院を続けにくくなる。接骨院側は、患者ごとに施術月数と部位数を把握し、対象に近づいた患者を早めに見極める必要が出てくる。

改定が現場の事務にどう効いてくるか

ここまでの変更を日々の作業に置き換えると、負担が集中するのは「記録」と「請求」の周辺だ。

  • 施術録に負傷名・負傷原因・施術部位を、明細書と矛盾なく残す
  • 患者ごとに、直近1年の施術月数と部位数を追いかける
  • 毎月、保険者ごとにレセプトを作成し、遅延なく請求する

一つひとつは地味な作業だが、患者数が増え、施術者が複数いる院ほど、頭の中や紙の控えだけでは管理しきれなくなる。とくに、正当な理由なく請求を遅らせることが認められにくくなったことで、月次のレセプト作成を後回しにできる余地は小さくなった。請求事務が特定のスタッフや院長個人に集中していると、その人が休んだ月に請求が滞る、というリスクが現実味を帯びる。これは、申告や請求の期限管理が担当者に依存しやすいという点で、税理士・社労士事務所で顧客対応が属人化する構造と本質的に同じ問題だ。紙やExcelの控えに頼った運用が件数の増加とともに崩れていく点も、以前Excel管理に潜むリスクとして整理したとおりである。

保険依存の収益構造をどう見直すか——自費への移行という選択

今回の改定に限らず、柔道整復療養費は長い目で見ると、対象範囲の明確化と審査の厳格化が続いてきた。療養費だけに収益を預けている限り、制度改定のたびに売上が揺れる。そのため業界全体では、自費施術・回数券・骨盤矯正やスポーツコンディショニングといった保険外メニュー、物販などへ収益の柱を広げる動きが以前から進んでいる。

ただし、自費への移行は「保険が使えないぶんを自費に置き換える」という単純な話ではない。自費メニューは、患者が価格に納得して継続来院してくれるだけの価値設計と、リピートを促す顧客管理がなければ定着しない。予約の取りやすさや受付での案内といった、医療機関に近い受付業務の設計も効いてくる。この点は、クリニックの予約・受付業務の課題で整理した内容と重なる部分が多い。保険請求の事務を回しながら、同時に自費客の継続来院を設計する——この二正面が、これからの接骨院・整骨院経営の難所になる。

中小の接骨院が改定に備えてできること

最後に、規模の小さな接骨院・整骨院が現実的に取れる備えを挙げる。

第一に、施術録と明細書の運用を、改定後のルールに合わせて早めに整えること。負傷名・部位・原因の記載を、施術のたびに漏れなく残す形に統一しておく。第二に、患者ごとの施術月数・部位数を把握できる状態にしておくこと。8ヶ月9部位の対象に近づいた患者を、月末になって慌てて確認するのではなく、日々の記録から見えるようにしておきたい。第三に、請求事務を特定の一人に依存させないこと。手順を書き出し、複数人で回せるようにしておくだけでも、休みや退職で請求が止まるリスクは下がる。

こうした記録・請求まわりの多くは、柔整向けのレセコン(レセプト作成ソフト)や予約・カルテ管理システムでかなりの部分を賄える。一方で、自費メニューの回数券消化や複数院での患者情報の共有、自院独自のキャンペーン管理といった、院ごとに事情が分かれる部分は、既製のソフトだけでは手が届かず、Excelや手作業が残りやすい。そこが手作業のまま膨らんでいくようなら、自院の運用に合わせた小さなツールを自前で用意するという選択肢も出てくる。ただ、それはあくまで手段の一つだ。まず優先すべきは、改定後のルールに沿って記録と請求の型を整えることにある。

まとめ

2026年7月の柔道整復療養費改定は、単価の微増と引き換えに、記録・請求・明細書の厳格化を接骨院・整骨院に求める内容になっている。目先の点数表よりも重いのは、健康保険の療養費に依存した収益構造そのものが問われている点だ。事務の型を整えて改定に対応しつつ、自費という第二の柱をどう育てるか。この二つを並行して進められるかどうかが、これからの数年で院の体力を左右する。

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