飲食店では予約システムやPOSレジ、シフト管理システムなど、業態に特化したSaaSの選択肢が増えている。単店舗であれば基本的な運営はこれらでほぼ完結する。それでも、複数の予約経路の突合、FLコスト(食材費と人件費の合計)の把握、複数店舗のシフト・人件費按分といった運営の細部では、Excelや紙の管理が残っているという話をよく聞く。SaaSで解決できる部分と、現場の工夫のまま残りやすい部分を整理する。
飲食店の運営を支えるSaaSの広がり
飲食店向けのSaaSは、予約管理・POSレジ・シフト管理・受発注のそれぞれで選択肢が充実してきた。予約管理ではトレタやChoiceRESERVEのように自社サイトの空席状況とグルメサイト・電話予約を一元化するサービスがあり、POSレジはスマレジやAirレジ、ユビレジのように会計と売上集計だけでなく在庫連携まで対応する製品が増えている。シフト管理もスマートフォンでの希望提出・自動シフト作成に対応するサービスが一般化してきた。単一店舗であれば、これらを組み合わせるだけで運営の大部分は回るようになってきている。
予約・注文経路が増えるほど起きる転記漏れ
課題として残りやすいのが、予約・注文の経路が複数にまたがるケースである。自社サイト、電話、グルメサイト、Google予約に加え、デリバリープラットフォーム(Uber Eats・出前館等)経由の注文も加わるため、経路ごとの空席・在庫情報がリアルタイムに同期していないと二重予約や品切れ対応の遅れが起こりうる。予約管理システムを導入していても、電話予約分だけは紙の台帳に手書きで残しているという店舗もあると聞く(未確認・一般論としての推測)。システム側の対応経路が限られている場合、結局は人が経路をまたいで手動で突き合わせる作業が残る。
FLコストの把握はPOSデータだけでは完結しない
飲食店経営の代表的な指標にFLコスト(Food+Laborコスト、食材費と人件費の売上に対する比率)がある。POSレジは売上・客数・単価の把握には強いが、仕入れ値の変動や歩留まり、廃棄ロスまではPOSの外側にある発注・仕入れの記録と突き合わせる必要がある。原価管理システムを別途導入していない店舗では、月末にExcelで仕入れ伝票とPOSの売上データを手作業で突き合わせて原価率を出しているケースが残っていると考えられる(推測)。
発注・仕入れとPOSデータのつながりにくさ
発注は電話・FAX・BtoBプラットフォーム経由など複数の手段が混在しやすく、POSの売上データと仕入れの数量・単価データが別のシステムに閉じているケースも多い。歩留まりや廃棄ロスを踏まえた実質原価は、POSの数字だけでは出てこず、仕入れ記録との突き合わせという手作業が発生しやすい構造がある。
業態によって優先すべき機能は変わる
同じ「飲食店」でも、業態によって運営上のボトルネックは異なる。予約中心のレストランやカフェでは予約経路の一元化とキャンセル対応の仕組みが優先されやすく、来店客の回転が速い居酒屋やラーメン店ではPOSレジでの会計スピードと在庫連携が優先されやすい。デリバリー専門店やゴーストキッチンでは、複数のデリバリープラットフォームからの注文を1つの厨房オペレーションにどう落とし込むかが課題の中心になる。同じ「飲食店向けSaaS」という括りでも、店の業態によって導入の優先順位が変わってくる点は押さえておきたい。
複数店舗運営で顕在化するシフト集計の壁
単店舗では気にならなかった課題が、複数店舗の運営に移った途端に表面化することがある。代表的なのがシフトと人件費の店舗間按分である。
店舗間のヘルプ勤務をどう配分するか
複数店舗を持つ飲食チェーンでは、繁忙な店舗に他店からスタッフを応援に出す「ヘルプ勤務」が発生しやすい。シフト管理SaaSの多くは自店舗内のシフト作成・打刻・自動集計には対応しているが、応援に出た先の勤務時間を、本来の所属店舗ではなく応援先の店舗の人件費として正しく振り分ける機能までは持たないことがある。美容室の複数店舗展開でも店舗横断の集計がSaaS単体では吸収しきれないという課題が指摘されており、業態を問わず起きやすい構造だと考えられる。
シフト希望の収集経路がバラバラになりやすい
求人媒体からの応募管理、LINEでのシフト希望のやり取り、勤怠システムへの反映が別々のツールで行われることも多く、シフト希望の集約だけExcelや紙のシフト表が残るパターンが見られる。変形労働時間制など複雑な勤務ルールを抱える企業でも、勤怠SaaSの設定だけでは吸収しきれない部分が残るという課題は、飲食店のシフト管理にも共通する部分がある。
個人店とチェーン店で異なる課題の重心
個人店・小規模店では、予約・注文経路の一元化とPOS連携さえ押さえれば運営の大半は回るようになる。複数店舗を抱えるチェーンになると、店舗をまたぐ集計・按分という新しい種類の課題が発生する、という構図が見えてくる。どちらの規模であっても、SaaS導入の目的を「日々の記録作業を減らすこと」と「経営判断に使えるデータを揃えること」のどちらに置くかで、優先すべき機能は変わってくる。
飲食店の業務効率化とは何から着手すべきか
飲食店の業務効率化は、予約管理・POSレジ・シフト管理のうち、最も手作業や属人化が進んでいる領域から着手するのが実務的とされている。単店舗であれば予約・注文経路の一元化とPOS連携から着手しやすく、複数店舗であればFLコストの店舗別按分やヘルプ勤務の人件費配分といった、店舗をまたぐ集計がボトルネックになりやすい。
FLコストの店舗間比較はなぜ後回しになりやすいか
複数店舗を持つ場合、店舗ごとに立地・客層・仕入れ先が異なるため、FLコストも店舗間で差が出るのが自然である。この差を経営判断に使うには、各店舗のPOSデータと仕入れデータを同じ基準で並べる必要があるが、店舗ごとにシステムの使い方や入力の粒度がわずかに異なっていると、単純比較ができなくなる。日々の営業を回すことが優先されるため、店舗間の基準を揃える作業は後回しになりやすい、という構図があると考えられる(推測)。
こうした店舗をまたぐ按分・集計のロジックは店舗ごとの運用ルールに依存する部分が大きく、既製のSaaSの設定だけでは吸収しきれずExcelや紙の運用が残ることがある、という点は留意しておきたい。
飲食店のSaaS導入でよくある疑問
Q. 個人経営の飲食店でも複数のSaaSを組み合わせる必要があるか。
単店舗で予約・注文経路がそれほど多くない場合は、POSレジと簡易な予約管理だけで十分に運営が回ることが多い。無理に多くのSaaSを組み合わせる前に、まず紙・Excelでの作業時間がどこに集中しているかを洗い出すのが実務的な出発点になる。
Q. 複数店舗になったらすぐにシステムを見直すべきか。
店舗数が増えた直後から按分の課題が顕在化するとは限らない。ただし、ヘルプ勤務やFLコストの店舗間比較が発生し始めた時点で、既存のSaaS設定だけで対応できているかを一度点検しておくと、Excelでの手作業が積み重なる前に見直しの判断がしやすくなる。