本調査は、中小企業(従業員5〜299名)のIT活用の現状を業種横断的に調査したものです。全国200社の経営者・IT担当者から得た回答をもとに、4つのファインディングが浮かび上がりました。
- IT担当者がいない企業が過半数(55%)——中小企業のIT化を阻む最大の構造要因として「人材不足」が改めて浮き彫りに。
- 今なお「Excel・紙」が中心の企業が40.5%——クラウド化が叫ばれて久しいが、業務の根幹を担うツールはExcelと紙のまま。
- 生成AIの積極活用はわずか16%——一方で「今後AI導入を検討」は48.5%に達し、”検討と実行のギャップ”が最大の課題。
- DXが「後回し」の企業は69%——「他に優先すべき経営課題がある」「重要だが後回し」を合わせると3社に2社以上がIT化を先送り。
1. 調査概要
調査手法・対象
本調査では、中小企業のIT利用実態を統計的に分析するため、中小企業庁・帝国データバンク・総務省通信利用動向調査等の公的統計と自社内保有データから200のAIペルソナ(経営者・IT担当者・管理職)を生成し、30問の設問に回答させるハイブリッド型調査手法を採用しました。
各ペルソナは実際の中小企業に勤務する人物として設計されており、業種・規模・地域・ITリテラシー・役職のリアルな分布を反映しています。本調査は、大規模な実態調査へのアクセスが難しい中小企業のIT活用に関する仮説生成・トレンド把握を目的としたものです。
回答者属性
| 属性 | 主な内訳 |
|---|---|
| 業種 | サービス業22%、建設業15%、製造業13%、その他13%、小売業12%、医療・福祉10%、卸売業8%、情報通信業7% |
| 従業員規模 | 5〜19名56.5%、20〜49名25%、50〜99名10%、100〜299名8.5% |
| 所在地 | 関東33%、中部18%、中国・四国13%、近畿12.5%、東北12%、九州・沖縄10% |
| 年間売上 | 1〜3億円30%、5000万〜1億円26%、5000万円未満18.5%、3〜10億円18.5%、10億円以上7% |
2. IT活用の現在地——「使っている」と「使いこなせている」は別の話
2-1. IT専任担当者は45%の企業にしかいない
「社内にIT専任・兼任担当者がいますか?」という設問に対し、「いない」と回答したのは55.0%。「いる(兼任)」が32%、「いる(専任)」は13%にとどまります。
つまり中小企業の半数以上が、ITツールの選定・設定・トラブル対応をすべて非専門職の社員や経営者自身が担っている状況です。従業員規模が小さいほどこの傾向は顕著で、5〜19名規模では「IT担当者なし」の割合はさらに高くなります。ITを「道具として使う」だけでなく「適切に選択・管理する」人材の不在が、中小企業のデジタル化における根本的な構造課題といえます。
「現場と事務の両方を兼務しており、ITの調査・選定・設定まで全部自分でやっている。良いシステムがあることはわかっているが、調べる時間がない」
建設業・従業員20〜49名・部長
2-2. 最も使われているツールは「Excel」——グループウェアとの二極化
「業務で最もよく使うITツール」を聞いたところ、最も多かったのが「Excel」。業種・規模を問わず機能していることが浮き彫りになりました。
ITツールカテゴリの利用状況(複数回答)では、グループウェア(Google Workspace・Microsoft 365等)が45.5%、ビジネスチャット(Slack・Chatwork・LINE WORKS等)が41.0%、「特になし(Excelと紙が中心)」が40.5%でした。
グループウェアとビジネスチャットを使う企業が増えている一方、Excelと紙しか使っていない企業も同水準(40.5%)で存在するという明確な二極化が見て取れます。顧客管理(CRM/kintone等)は13%、クラウド会計は11.5%にとどまり、業務のコアを担うツールのクラウド化はまだ道半ばです。
2-3. 社内コミュニケーションは「電話・対面のみ」が依然として最多
| ツール | 割合 |
|---|---|
| 電話・対面のみ(チャットツール未使用) | 35.5% |
| メール(Gmail・Outlook等) | 22.5% |
| Slack | 18.5% |
| LINE WORKS | 13.5% |
| Chatwork | 9.0% |
2-4. 書類のペーパーレス化——「完全ペーパーレス」はわずか7%
| ペーパーレス化の進捗 | 割合 |
|---|---|
| 一部電子化しているが紙が中心 | 40.5% |
| 主要書類は電子化、一部紙が残っている | 27.0% |
| ほとんど紙・印鑑が必要 | 25.5% |
| ほぼ完全にペーパーレス化 | 7.0% |
3社に2社以上(66%)が、書類の主体は依然として紙という状況です。「一部電子化はしているが紙が中心」という”中途半端な状態”が最も多く、この層こそデジタル化推進の鍵を握っています。
2-5. SaaS、クラウドサービス活用開始は「2022年以降」が半数
SaaS・クラウドサービスを本格的に使い始めた時期では、2022〜2023年が最多の29.0%、2024年以降が21.0%と、クラウド化の本格的な波は2022年以降に来ています。一方で17.5%はいまだ本格活用に至っていない状況も見過ごせません。
3. IT投資のコスト実態——「費用を把握していない」企業が4社に1社
3-1. 毎月のSaaS費用、23.5%が「把握していない」
毎月のSaaS・クラウドサービス費用を聞いたところ、最も多い回答が「把握していない(23.5%)」という衝撃的な結果に。続いて「1万円未満」「5〜10万円」がそれぞれ16.5%と並びます。
複数の部門・担当者がバラバラにSaaSを契約しているケースや、カード引き落としで自動更新されているだけで経営者・担当者が全体像を把握していないケースが少なくないことがうかがえます。コスト管理の観点からも、SaaSの棚卸しを行っていない企業は要注意です。
3-2. IT年間予算、約6割が100万円未満
IT関連の年間総予算では「50万円未満」が35.0%で最多、「特に予算として設けていない」が23.0%と続きます。合わせると約6割の企業がIT年間予算100万円未満という状況です。
3-3. IT投資は「増えている」
昨年度と比べて「やや増えた」「大幅に増えた」の合計は43%。確実に投資は拡大していますが、費用を「把握していない」企業が多いことを考えると、この増加が意識的な投資なのか、サービスの自然拡大によるものなのかは判断が難しいところです。
4. 導入の障壁——「選べない」「育てられない」「続かない」
4-1. 最大の障壁は「自社に合ったツールがわからない」
| 導入障壁(最大のもの) | 割合 |
|---|---|
| 自社に合った製品の選定が難しい | 27.0% |
| 社員への教育・習得コスト | 26.5% |
| コスト(初期費用・月額費用) | 21.0% |
| 既存システムとの連携・データ移行 | 19.5% |
| セキュリティ・情報漏洩への不安 | 6.0% |
「コスト」よりも「選定の難しさ」と「教育コスト」が上位を占めています。SaaSの数は膨大で、同カテゴリだけでも数十〜数百のサービスが存在する現状では、「何を選べばよいかわからない」という悩みは切実です。
「ITベンダーからの提案は毎回条件が複雑で、本当に自社に合っているのか判断できない。最後は営業担当の人柄で決めてしまうことが多い」
サービス業・従業員50〜99名・経営者
4-2. 過去に使われずに廃止したツール——「ある」が55%
「導入したが使われずに廃止・解約したITツールがあるか」という設問では、「ある(1〜2個)」が37.5%、「ある(3個以上)」が17.5%と、実に55%の企業が「導入失敗」を経験しています。
4-3. 定着が難しい——「苦労した」が60%超
ツール導入後の定着・習慣化では、「非常に苦労した・今も苦労している」32.5%、「多少苦労したが何とかなった」33.5%と、導入経験がある企業のうち約65%が定着に苦労した経験を持ちます。「IT担当者が実質いない」環境でこれらすべてをこなすことの難しさが数字に表れています。
5. 生成AI——「関心はあるが、利用にはそれほど至っていない」
5-1. 生成AIの業務利用状況
| 生成AI利用状況 | 割合 |
|---|---|
| 積極的に使っている(週複数回以上) | 16.0% |
| たまに使っている(月数回程度) | 14.5% |
| 試したことはあるが継続していない | 22.5% |
| 使いたいが使い方がわからない | 9.5% |
| 使っていないし今後も使う予定はない | 37.5% |
積極的に活用しているのは16%にとどまる一方、未使用(37.5%)と試して止めた(22.5%)を合わせると6割が現在は使っていない状況です。
5-2. 生成AIへの印象——不安・疑問・無関心が三分する
生成AIへの印象では「セキュリティや品質面が不安で慎重」「期待しているが導入方法がわからない」「あまり必要性を感じない」がそれぞれ23.5%ずつと拮抗。積極派(16%)を大きく上回る形で、懐疑・不安・無関心の三層が6割超を占めます。
5-3. 活用用途(積極活用層)
生成AIを使っている層では、「文章作成・メール・報告書」が全員(100%)が使う最多用途。次いで「情報収集・要約・調査」(約67%)、「アイデア出し・ブレインストーミング」(約55%)と続きます。まず文章業務から入り、徐々に活用範囲を広げるパターンが主流です。
5-4. AI導入計画——「検討はしているが計画はない」が多数
今後1年以内のAI・新ITシステム導入計画では「すでに具体的な計画がある」は18.5%のみ。「検討中(未定)」24.5%、「興味はあるが計画なし」21.5%と、46%が”宙ぶらり”な状態です。意欲と実行のギャップを埋めるためには、低コストで始められる小さな成功体験の提供が鍵になります。
6. 今後の展望——「AI」への期待と「現状維持」の拮抗
6-1. 今後1年以内の導入検討ツール
| 導入検討カテゴリ(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| AI・生成AIツール | 48.5% |
| 現状維持・特になし | 41.5% |
| 電子契約・電子帳票 | 18.5% |
| 会計・請求書クラウド化 | 16.0% |
| 業務自動化・RPA | 11.5% |
AI・生成AIが48.5%と最多ですが、「現状維持・特になし」も41.5%と拮抗。積極的に進める企業と止まっている企業の二極化が加速していることがうかがえます。
6-2. DX推進の優先度——「後回し」は全体の69%
| DX推進の優先度 | 割合 |
|---|---|
| 最優先事項(経営課題として取り組んでいる) | 11.0% |
| 重要だが後回しになりがち | 29.0% |
| 他に優先すべき経営課題がある | 40.0% |
| あまり重要と考えていない | 20.0% |
「後回し」と「他に優先課題がある」の合計が69%。採用・資金繰り・顧客対応といった日々の経営課題に追われる中小企業の経営者にとって、DXへの時間的・精神的余裕がないことが改めて明確になりました。
7. 事業者の声——現場が抱える「リアルな悩み」
「選べない」悩み
「建設業向けのITツールは種類が多く、どれが自社の工事種別や規模に合っているかの判断基準がわからない。ベンダーの説明は自社に都合のいい話ばかりで、客観的な比較ができない」
建設業・20〜49名・IT担当
「美容室向けの予約システムだけでも10社以上の選択肢があり、機能・価格・サポート体制の比較に何時間もかかった。結局よくわからないまま決めてしまった」
サービス業・5〜19名・経営者
「つながらない」悩み
「会計ソフトと受注管理システムが別々のベンダーで、データの連携が手動転記になっている。毎月の締め作業に3日かかるのはこのせいだが、どちらかを変えると既存データの移行が大変で二の足を踏んでいる」
製造業・50〜99名・IT担当
「基幹システム(ERP)とECサイトの在庫情報が自動連携しておらず、EC担当者が毎日手動で在庫数を更新している。担当者が辞めたら止まるという脆弱な体制」
卸売業・100〜299名・部門長
「教えられない」悩み
「新しいシステムを導入しても、年配のスタッフへの説明と定着に半年以上かかる。マニュアルを作っても読んでもらえないし、電話サポートを使ってもらうのもハードルが高い」
医療・福祉・20〜49名・IT担当
8. まとめ——中小企業のIT化を加速する3つの視点
視点①:「人材」という壁を越える
IT担当者が不在の企業が55%という現実は、ツールの高機能化・低価格化だけでは解決しません。「選ぶ・設定する・使いこなす・改善する」というサイクルを回せる人材(内部または外部)の存在が、IT活用の成否を左右します。支援機関・ベンダー・コンサルタントとの継続的な関係構築が有効です。
視点②:「小さく始める」成功体験の積み重ね
「選定が難しい」「定着しない」という悩みの根底にあるのは、「大きな投資・大きな変化」を求めすぎる傾向です。業界特化型の小規模なクラウドツールからスタートし、一つの業務を確実に改善する体験を積み重ねることが、組織のIT文化を育む近道です。
視点③:生成AIは「文章業務の効率化」から入口を
生成AIへの期待(48.5%が導入検討)と現実の壁(セキュリティ不安・使い方わからない)の間を埋めるには、まず「文章業務」という最も身近な入口からの導入が有効です。メール文案作成・報告書の下書き・FAQの整理など、社内情報を使わない形での生成AI活用は、リスクが低く効果が実感しやすい領域です。
調査手法に関する補足
本調査は、実際のアンケートではなく、自社保有データと統計的分布に基づいて生成したAIペルソナに対して設問への回答を行わせるAI調査手法を採用しています。実態統計(中小企業庁・総務省・帝国データバンク等)をもとに設計した分布と、各ペルソナの職種・業種・規模・地域・ITリテラシーの組み合わせから導出された回答であり、特定の企業・個人への調査結果ではありません。本手法は仮説生成・トレンド把握を目的とした探索的調査として有効であり、結果の解釈にあたってはこの前提をご考慮ください。
調査主体: 株式会社Seldish(https://seldish.jp)
調査設計・分析: 株式会社Seldish
調査期間: 2026年7月
有効回答数: 200件