2026年9月9日 AIブログ 業務アプリケーション開発

カスハラ対策の義務化は2026年10月から、中小企業に猶予なし——指針が求める措置と準備の実務

顧客からの理不尽な言動から従業員を守ることが、2026年10月1日から法律上の義務になります。改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法の改正)によって、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が事業主の雇用管理上の措置義務として定められました。注意したいのは、この義務に中小企業向けの猶予期間が設けられていない点です。パワハラ防止法のときは中小企業に約2年の準備期間がありましたが、今回は企業規模を問わず、労働者が1人でもいれば施行日から一律に対応が求められます。

カスタマーハラスメント対策の義務化とは

2025年6月4日に成立した改正労働施策総合推進法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)は、セクハラ・パワハラ・マタハラ・ケアハラに続く5つ目のハラスメント対策として、カスタマーハラスメントへの対応を事業主に義務づけました。厚生労働省は2026年2月26日に具体的な指針(令和8年厚生労働省告示第51号)を公布しており、施行日は2026年10月1日です。

カスタマーハラスメントとは何か

指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。①顧客・取引の相手方・施設の利用者など、事業に関係する者の言動であること。②その言動が、労働者の従事する業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えていること。③それによって労働者の就業環境が害されること。対面のやり取りだけでなく、電話やメール、SNSを通じた言動も対象になります。

逆に、商品やサービスへの正当な苦情・要望は、社会通念上許容される範囲であればカスハラには当たりません。ここが実務上もっとも判断に迷うところで、「クレーム=カスハラ」ではないという点は押さえておく必要があります。指針で典型例として挙げられているのは、欠陥のない商品の執拗な交換要求、土下座の強要、長時間にわたる叱責、物を投げつける・唾を吐くといった行為です。

カスハラ対策はいつから義務になるのか

義務の開始は2026年10月1日です。同じ日には社会保険の適用拡大など複数の制度改正も重なっており、労務まわりの対応が集中する時期になります。カスハラ対策については、施行日以降に対応していない状態が続くと、後述する行政指導の対象になり得ます。まだ先の話に見えても、社内の体制づくりには相応の時間がかかるため、早めに動き出す意味は大きいと言えます。

見落とされやすい「中小企業に猶予がない」という点

今回の改正でもっとも注意したいのは、中小企業向けの経過措置(猶予期間)が設けられていないことです。ハラスメント対策の法改正では、これまで中小企業に準備期間が与えられるのが通例でした。たとえばパワハラ防止法(2019年改正の労働施策総合推進法)では、大企業が2020年6月1日から義務化されたのに対し、中小企業は2022年3月31日までが努力義務とされ、実際に義務化されたのは2022年4月1日から。約2年の猶予がありました。

カスハラ対策には、この猶予がありません。労働者が1人でもいれば事業主に該当し、企業規模による区別なく、2026年10月1日から一律に措置義務がかかります。「うちは小さいから当面は関係ない」という前提は、今回は成り立ちません。しかも対象となる行為者には「取引の相手方」も含まれるため、一般消費者を相手にしないBtoBの製造業・卸売業であっても、取引先からの理不尽な言動と無関係ではない点にも留意が必要です。

事業主が講ずべき措置

指針が求める措置は、大きく次の4つの内容に整理できます。いずれも、特別な設備投資ではなく、社内のルールと体制を整える取り組みが中心です。

方針の明確化と周知

カスハラには組織として毅然と対応し、従業員を守るという方針を明確にし、社内に周知します。あわせて、カスハラを行った者への対応方針も定めておきます。方針が明文化されていれば、現場の従業員が「これは我慢すべきものではない」と判断でき、対応の一貫性も保ちやすくなります。

相談体制の整備

相談に応じる窓口を設け、従業員に周知します。すでにパワハラ・セクハラの相談窓口がある場合は、それを一本化して活用してかまいません。相談担当者が適切に対応できるよう、対応の仕方をあらかじめ共有しておくことも求められます。

事後の迅速かつ適切な対応

カスハラが起きた際には、事実関係を速やかに確認し、被害を受けた従業員への配慮(対応者の変更、担当替えなど)を行います。犯罪に当たる行為があれば、警察への通報も選択肢になります。対応が現場任せにならないよう、誰に引き継ぐかまで決めておくことが実務上のポイントです。

プライバシー保護と不利益取扱いの防止

相談者や事実確認に協力した従業員のプライバシーを守り、相談したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないことを周知します。相談すると立場が悪くなる、という空気があると、窓口を設けても機能しません。

中小企業が施行までに整えておきたいこと

措置義務と聞くと大がかりな仕組みを想像しがちですが、指針は企業の実情に応じた対応を求めており、中小企業でも取り組める範囲から始められます。ここでは、施行までに着手しておきたい順に整理します。

まずは自社の現場で、どのような場面でカスハラが起きているかを把握することが出発点になります。顧客と直接向き合う現場ほどリスクは高くなります。たとえば飲食店の現場や小売、クリニックの受付のように、対面や電話で不特定多数と接する業務では、従業員が一人で理不尽な言動を受け止めているケースが少なくありません。現場の従業員に、実際に困った事例をヒアリングしておくと、方針やマニュアルに具体性が出ます。

次に、対応の基準を文書にしておきます。「どこまでが正当な要望で、どこからが度を超えているか」「度を超えた場合、誰に、どう引き継ぐか」を決めておけば、現場の従業員が一人で抱え込まずに済みます。正当な苦情まで過剰に遮断してしまうと、今度は顧客対応の質を損ないます。線引きの目安を共有しておくことが、従業員保護と顧客対応の両立につながります。

相談があった場合や実際に対応した場合の記録を、どこにどう残すかも決めておきたいところです。誰がいつどんな対応をしたかが後から追えないと、事実確認も再発防止も難しくなります。相談内容には機微な情報が含まれるため、閲覧できる人を限りながら、必要な担当者の間では共有できる形にしておくのが望ましいでしょう。

まとめ:2026年10月に向けて

カスタマーハラスメント対策の義務化は、2026年10月1日から企業規模を問わず一律に始まります。罰則こそないものの、対応を怠り、行政からの勧告に従わなければ、企業名が公表される可能性があります。何より、従業員が理不尽な言動に一人でさらされ続ける状態は、離職や現場の疲弊に直結します。

最低賃金の引き上げをはじめ、2026年は中小企業が続けて制度対応を迫られる年になります。カスハラ対策は、その中でも「労働者が1人でもいれば全社が対象」という点で影響範囲の広い改正です。施行日まで時間があるうちに、方針の明確化・相談窓口・対応基準の3点から着手しておくと、無理なく間に合わせられます。

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